今年(2013年)の3月11日、ポーランドのワルシャワで「若い外交官フォーラム」が「福島事故2周年、チェルノビル事故25周年を迎え、ポーランドにおける原子力エネルギーを考える会議」というものを主催し、在ポーランド日本大使館から松本参事官が出席されました。
こちらのページに簡単な報告が載せられています。
http://www.pl.emb-japan.go.jp/keizai/j_20130311.html
こちらのページが主催者側のウェブ・ページです。
http://www.diplomacy.pl/pl/component/content/article/34-bezpiecznik-fmd/321-warszawa-bezpiecznik-fmd-energia-jadrowa-w-polsce-w-druga-rocznice-katastrofy-w-fukushimie-i-w-cwiercwiecze-po-wydarzeniach-w-czarnobylu-11032013
このページの "Sprawozdanie" というリンクから主催者側による報告書(ポーランド語)がダウンロードできます。
http://www.diplomacy.pl/images/aktualnosci/energia_jadrowa_w_polsce_sprawozdanie.pdf
"Prezentacje:" 以下の部分で各登壇者のプレゼンテーションファイル(ポーランド語)がダウンロードできます。
このブログ記事の筆者は会議に参加できなかったので、以下は主催者側の報告書、つまり、ポーランド人参加者には会議からどのような印象が残ったのかという報告を基に、気になった点をかいつまんで紹介します。
登壇者を大雑把に色分けすると、会議の共催者であるハインリヒ・ベル財団(ドイツ系シンクタンク)は反対派。ポーランド経済省原子力局の代表者とポーランド国立原子力研究センターからの教授二人の計三人が推進派、ポーランド緑の党からの代表者と1990-95年に環境省次官を務めて現在は独立コンサルタントの二人が反対派・懐疑派、という風に一応の公平性は持たれています。
しかし「福島事故2周年、チェルノビル事故25周年を迎え...」と銘打ってありながら、チェルノブイリ事故の最大の被害国でかつポーランドの隣国であるベラルーシ、ウクライナ、あるいはロシアからの招待登壇者はおらず、日本大使館が「後援」の名義を出して開かれたものなので、自ずと会議の実際の性格が推し量られるでしょう。
日本大使館の松本参事官の講演は先に挙げたリンク先にある通り、「最近の福島原子力発電の復興状況、我が国の原子力発電所に対する新たな安全基準の検討状況や日本は福島の事故の経験を国際社会と幅広く共有し、二度とこのような事故が起こらないよう努力していく決意である」という内容でした。ポーランド政府あるは民間から集められた義援金への感謝も述べられています。
ポーランド経済省原子力局の代表者とポーランド国立原子力研究センターの教授による原発推進の理由については「エネルギー自立が求められている。ポーランドに地震は無い。第三世代原子炉ならばより安全である。」といった点に集約されます。それぞれ批判点はあるのですがここでは割愛します。反対派・懐疑派側の発言も含めて機会を改めて詳しく紹介したいと思います。
気になったのはもう一人のポーランド国立原子力研究センター教授による「放射線の生物学的影響」という講演です。主催者側の報告書によれば、この教授は
1. 少量の放射線はヒトの寿命に有益な効果をもたらす
2. 生涯 100mSv でも健康影響は無い
3. 犬やラットへの放射線照射実験でも、寿命を延ばすことがわかっている
4. ヒトの健康影響は放射線によるものではなくむしろ心理的なものから
なので、原発で心配する事はないと発表しています。
構図を簡単にすると、要するにチェルノブイリの被害者、福島事故の被害者、世界各地の核施設による放射能汚染の被害者を犬やラットと同等扱いして、心配する事はないと言っているわけです。内部被爆と外部被爆の違いについても触れてはいないのでしょう。この上ない冒涜だと思います。こういう人物でも「教授」として放射線医学分野で権威を持っているのがポーランドの実態です。
この内容には当然抗議するべきだと思われますが、この会議報告書では日本大使館参事官がそのような行動を取ったかどうかは触れられていません。
大使館員がポーランドの原発推進派と同調した推進側の言動を取っている事自体には何ら驚きません。日本の政権自体が原発輸出を政策の一つにしているからです。そして日本国家の外国における代表機関である大使館はその政策を最大限に広げるのが仕事だからです。むしろ健全に機能していることに安心すべきなのでしょう。
放射能汚染の被害者を犬やラットと同等扱いするような学者を擁するポーランドの原発推進派に「日本製プラントを買ってください」と頭を下げてお願いしているのが日本の現状です。6月の安倍首相の「原発トップセールス」ポーランド訪問はこの流れで行われたものです。
原発は、犬やラットと同等扱いされてもなおへりくだって世界中に売り歩くほどのものでしょうか?
この会議の内容については割愛した他の登壇者の発言も含めて機会を改めて詳しく紹介したいと思います。